無心にて街を闊歩すると申せば
そこはかとなく漂う男の哀愁を予感するものだが、
つまり、ぼーっと歩いているにすぎない。
そんなところが自分には多い。
気がつけば街を歩いていると、他人に声をかけられる回数が多いことに気づく。
その多くが、困っている女性(年齢は自分より上)、
途方にくれている異国からの方々。
サングラスをかけ、おおよそ話しかけづらいだろうと私個人が思っている格好であっても、それはそれはおかまいなしに干渉してきなさる。
以下は本日昼の、ある男の記録である。
飯田橋の昼ともなれば、そこはオフィス街の真っ只中で、スーツ姿の成人が我先にと、いかに安くて旨いと評される限定ランチを手に入れるかで血で血を洗う抗争が繰り広げられている。
そんな街中を、男もまた食をもとめ、漂よっていた。
寝起き30分(毎日昼起床)。
ふと覗き込んだコンビニのガラスにはあきらかに人外のものと思われる突起物(?)が後頭部から伸びだし、育てよ育てとばかりに日の光を求めていた。
そっと後頭部をなでつけ、その突起物の弾性を確かめると、無駄な足掻きをやめる。
・・・そう、その男の頭には寝癖がついていた。
紙のようにパリッとしたデザイナーズスーツを着込む一群を尻目に、男の服装はといえばダメージジーンズといえば聞こえはいいが、単に高校生の時から穿いているから破れちゃったズボン(部屋着用)に、彫金仕事をしていても汚れが目立たないユニクロの商品の上にセールで買った500円のジップアップジャケット。
その上でくどいようだが寝癖だった。
何がいいたいかといえば、違う意味で「声をかけづらい格好」であったはずなのである。
コンビニに入ると男は本日昼の楽しみを「肉まん」と定め、レジに並ぶ。
さすが昼時、なかなかの盛況ぶりで多くのビジネスマンがフリータイムをマガジンで過ごしていた。
さてレジはといえば、男の出番になる。
店員に注文内容を言っている最中、
ふいに服を軽く引っ張られた。
「ちょっとあなた、コレ何て言うかわかる?」
となりのレジに目を向けると、そこには自分より年齢が上の女性とyahoo!のモデムの箱があった。
男「チャーシューまんと塩豚まんと・・・モデムです」
店員「チャーシューまんと塩豚まんとモデムですね・・・え?モデム?」
男「ああ、いや、モデムは注文じゃなくって・・・」
男と店員は妙にどぎまぎし、そう、それは恋に似ていた。
女性はコンビニにyahoo!BBのサービスを止めるためにモデムを返却配送に来たのだが、店員さんに「箱の中身は何ですか?」と聞かれ、箱の中身の名称がわからずに、男に聞いたのだった。
他にも周りには人がいたのに。
寝癖立っていたのに・・・
よほど困っていて単に横に居る私に声をかけただけなのだと思うが。
去り際、女性から「ありがとう!助かったわ」という一言と、はにかみ気味の素敵な笑顔を頂戴した。
コンビニの外に出ると男は思わず苦笑し、
高層ビルに切り取られた、小さな曇り空をみて
飯田橋もそんなに悪くないと、袋の温かさを手のひらに感じ、ゆっくりと歩き出した。
PS:歩き出したところで、
勢いよくかぶりついたチャーシューまんから噴出した肉汁に顔面を襲われ、思わず「うっ!」と、うめきました。
昼のチャーシューまんは夜と違い、イキがいいです・・・
(ToT)