夜、妻が家を出て行きました・・・/シルバーアクセサリー

　粉まみれの手。
ヤスリを握る手もおぼつなかい今こそ一日の終わりなのだと自分に言い聞かせ、何時間も握りつくした紫色の欠片をそっと机に置く。

　こうして仕事に追われ朝を迎えると、痛切に心に覚えるものがある。
一人でいることがこんなにも先の見えない不透明な時間であったのかと。
空虚な気持ちを紛らわすように胃の中に流し込んだビールは、いつまでも私をこの現実からは開放せず、ただいたずらに所在の知らない自分を気づかせる。
　高層ビルにかこまれた室内から覗く風景は複雑な形に切り取られた小さな空と、そこに感動を覚えることはない大きな抜け殻だけだ。
今の私にあるものはといえば、その小さな空からほんの少しのぞく朝日から得られるわずかな光とぬくもりだけ。

　明日も明後日も、私は机に向かい、いや自分に向かい、手のひらに乗る程の小さな宇宙に無限の可能性を希望し、一つの形に閉じ込めようと無茶をするのだ。


　…ああ、サイパン。
妻は実家の両親と共に今日からバカンスに出かけてしまうのだ。
帰ってくるまでの4日間、飢え死にしないかしら…私。

　一昨日、牛丼を1.5kg以上作って冷蔵庫に保管しました。
昨夜旅行に行く前に妻に見つかり、
「山篭りの準備、整ってるね」と自分の横着ぶりを指摘されました。
でかける間際、「野菜も食べなさい」と言われましたが、
生まれてこのかた、サラダ作ったことありません。
千切ればいいんですか？
一人だとひもじくて死んでしまいます。
お坊ちゃん育ちなんですよ、僕は！

　早く帰ってきて下さい！
牛丼、お好み焼き、オムライス…3品しか味がまともなもの、作れないです！
それ以外のものはファヴリルハーツの作品同様に「前衛的」な味になる恐れがあります。