変身ベルト/シルバーアクセサリー

祖父母の家に行き、
幼少期のアルバムに、懐かしく手をのばす。
写真の中の彼は、
満面の笑みで私に問い掛ける。

「今の君は、僕が望んだ『僕』になっているかい？」

あの頃に比べると、
世界は落ち着きを取り戻せないでいる。
それとも、数10年前からその予兆はあったのか。
「正義の味方」になることを望んだ少年は、
正義という狂気を知らなかった。
いや、知らなかったはずなのだ。
「正義」とは己の倫理を貫くというコトなのだと。

生きていく過程で 色々なモノと戦い
そして今も戦っている。
知識と腕力を使い、
それが「暴力」だと気がつくまでに
どれだけ傷つけてきただろう。
後悔はしないと心に決めていても、
傷つけた分だけ、
私の心は闇へと近づいている気がする。

傷つけたことを恥じ入り
その恥を抱え、生きていく。
そうして心は硬く、成長していく。
大人になるとは、そういうことだ。
そう信じていた。
信じていたのに…


日中、時間に余裕があり、
散歩ついでにスーパーから帰った私は、
買い物袋の中の
「お一人様一日一個限定1パック￥98!!」 の卵をすっかり忘れて
床にドスっと置いてしまう。
案の定、半数以上の卵はむなしくも原形をとどめてはいない。

妻に怒られる…

割れた卵をボールに集め、
巨大なプレーン・オムレツを作り
証拠隠滅を図る。
だが、帰宅した彼女は
きっと私に、こう問い正すに違いない。

「卵、少ないね」

更にスーパーに行き、
もはやすでに1パック￥138へと変貌を遂げた卵を買い足す。
これならば、

「卵、たくさんあるね」
「うん、まだ残ってたんだけど、使うから買ったんだ」
「今日は卵、安い日だもんね」
「うん」

私は汚い大人へとなってしまった。

今こそ思う。
写真の中、
ライダーベルトを腰に巻く少年は
次の瞬間、正義の味方にきっと変身するのだ。
そして、彼の目に宿す希望の光は、
私の、頑なに他者を拒絶する心の闇を優しく照らす。
変身した彼は、私にこう言うだろう。

ドンマイ♪


だが、この時はまだ気がついていなかった。
ゴミ箱の中の 山積みの卵のカラのことを。