秘密結社とビデオテープ/シルバーアクセサリー

ずいぶん昔のことだと思うんですけど、
私は小さいながらに映画が好きで、特にスパイものなんか
それこそ手に汗握って観ていました。

その頃はまだ、一般家庭にやっとビデオデッキが普及し始めたかな、
といったところだったと思うんですけど、
父親ががんばったんでしょうね、
うちにもビデオデッキがつきました。

当時の私は小学校中学年ぐらいで、学校から帰ると
前の晩に録った金曜ロードショウの録画ビデオを観る、
これが最高の贅沢でした。
なにせ子供でしたから９時以降は起きていられなかったんです、眠くて。

外で遊ぶのが好きでしたから、
天気のいい日に外に出ないというだけでそれこそ贅沢だったんです。
で、まぁ、外で遊ぶのを我慢してまで観たかったのがスパイ映画。
スパイ大作戦だったんじゃないかな。
ハラハラドキドキ大人の冒険活劇、そんな風に感じましたね。
しかしそんな至福の時間も終わりを告げました。
私も大人になったのです。

問題となるその日、私は帰宅するや否や、
楽しみにしていた昨夜のビデオを鑑賞していました。
そして問題のシーンがやってきたのです。
主人公のもとに本部から指令のビデオレターが届きました。
主人公はビデオをデッキの中に入れ、今回の指令内容を聞くのです。
おおかた内容を告げるとテレビにうつったナイスミドルは言いました。
「なお、このテープは自動的に消滅する」
言い終わるとテープは自動的にデッキから飛びだし、
なんということか煙を吹き出したのです。
何というコトだ！あぶないじゃないか。
主人公は主人公で「うーむ」なんて顔をしていやがる。
はやく取り出せよ、デッキがだめになるじゃないか。
だいいちそれはホテルのビデオデッキだぞ。
あっコラコラ、行くな行くな！
まぁそんな具合に主人公の責任感と危機感のなさに幻滅し
こんな大人にはならないぞと堅く心に誓ったのです。

冬はもうすぐ、哀愁漂うそんな青春の一ページでした。